私の知り合いに宮川聡という人物がいます。大手電機メーカーに勤めているエンジニアでした。
「でした」という言い方をしたのには理由があります。彼はもう会社を辞めてしまったからです。
会社を辞めて今何をしているのかというと、何もしていません。働いていません。無職です。
労働というものを一切していないのです。私は驚きました。彼が多少のお金を蓄えていることは知っていました。
趣味で株式投資だかなんだかをやっていると聞いたことがあったからです。
だからと言って、遊んで暮らせるほどの財産など無いはずです。
こういう言い方はちょっと失礼ですが、サラリーマンの貯金なんてたかが知れています。
「あいつは頭がおかしくなったのか？」
マジでそう思いました。電機メーカーの仕事は激務らしく、残業や休日出勤ばかりでストレスが溜まると言っていたのを思い出しました。
「何もかもがイヤになって自暴自棄になってしまったのか？」
そう思うと、何だか可哀想に感じました。これがモーレツ社員のなれの果ての惨めな姿なんだと哀れに思いました。
彼は、きっとひどく落ち込んでいることでしょう。そんな彼を慰めてやろうと思い、久々に会うことにしました。
ところが、私は青龍刀で頭をカチ割られるほどの衝撃を受けることになったのです。
彼は、確かに会社を辞めて働いていませんでした。
確かに無職でした。一切の労働をしていませんでした。
それなのに、『1日に数十万円』もの現金を手に入れていたのです。
『1ヶ月でサラリーマンの年収』ほどの現金を荒稼ぎしていたのです。まったく働きもせずに・・・
その秘密について、彼はこともなげに語ってくれました。
「なんだ、お前、まだ毎日忙しく働いてるのか？」
彼はニコニコしながら言葉を続けました。
「オレはもう働かなくていいんだ。
毎日好きな時間に起きて
好きなことをして
好きなものを食べて
好きな所へ行って
好きな酒を飲んで
好きな時間に寝て・・・
人生って楽しいものなんだって、今になってようやくわかったよ。これからは、思う存分人生を楽しもうと思ってるんだ」
彼は、眩しいほどの笑顔を浮かべていました。別れ際に、彼はこんなことを言っていました。
「人生、お金だけが全てじゃないけどさ、お金があるだけでこんなに人生が変わるものだとは知らなかったよ」
そう言うと、彼はのんびりした足どりで去っていきました。
私は、『人生』という言葉の意味をもう一度ゆっくりと考えてみようと思いました。
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